小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)その4:小学校教育におけるプログラミング教育の在り方

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今後の社会で活躍できる人材を育てるためには、「プログラミング教育」が重要なキーワードであると言われて久しい教育の世界。行政では、これに対してどのような議論がされているのでしょうか?文部科学省は、平成28年6月16日に「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」を行いました。うさぎノート通信では、その内容を簡単にまとめ、記事にまとめてお届けします。今回は、「4.小学校教育におけるプログラミング教育の在り方」についてのご説明です。

目次

小学校教育における実施の在り方

小学校においては、「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎」を培うこと、及び「国家社会の形成者として必要とされる基本的な資質」を養うことを目的とする義務教育のうち、基礎的なものを施すことが目的です。小学校教育の改善は、新しい時代における社会や職業の在り方を見据えつつ、子どもたちが将来どのような職業に就くとしても生かすことができるような資質・能力を育むことを目的として行われなければなりません。

小学校の6年間に、子どもたちは幼児教育を通じて身に付けたことを生かしながら、身近な生活の中での豊かな体験を通じて具体的な物事を捉え、次第に抽象的な思考力を高めていきます。こうした発達の段階であることを踏まえ、小学校教育では各教科の学びにおいても、身近な生活との関わりや体験的な学習を重視してきています。このような子どもの成長や発達に寄り添う視点が極めて重要です。

また、小学校は中学校や高等学校と異なり、各教科に専門性を有する教員が教科ごとに教える教科担任制ではなく、基本的に学級担任が全ての教科を担当する学級担任制がとられています。そうした指導体制の違いも踏まえながら、小学校におけるプログラミング教育の在り方を考えていく必要があるのです。

小学校におけるプログラミング教育が目指すのは、子どもたちがコンピュータに意図した処理を行うよう指示をする体験しながら、身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。各教科で育まれる思考力を基盤としながら基礎的な「プログラミング的思考」を身に付けること、コンピュータの働きを自分の生活に生かそうとする態度を身に付けることです。

中学校や高等学校の段階では、簡単なプログラムの作成や、コンピュータの働きの科学的な理解などを目指し、技術・家庭科や情報科において構造化された内容を体系的に学んでいくことが必要です。
その一方で小学校におけるプログラミング教育が目指すのは下記の項目です。
・身近な生活の中での気付きを促す
・各教科で身に付いた思考力を「プログラミング的思考」につなげる
・コンピュータの働きが身近のさまざまな場面で役立っていることを実感しながら自分の生活に生かそうとする
これらを実現するためには、学級担任制のメリットを生かしながら、教育課程全体を見渡した中で、プログラミング教育を行う単元を各学校が適切に位置付け、実施していくことが効果的でしょう。

プログラミング教育の実施に当たっては、コーディングを覚えることが目的ではないことを明確に共有していくことが不可欠です。また、「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するプログラミング教育とすることが重要であり、一人で黙々とコンピュータに向かっているだけで授業が終わったり、子ども自身の生活や体験と切り離された抽象的な内容に終始したりすることがないように心がけなくてはなりません。楽しく学んでコンピュータに触れることが好きになることを重視しつつも、楽しいだけで終わっては学校教育としての学習成果に結びついたとは言えません。これでは、子どもたちの感性や学習意欲に働きかけるためにも不十分です。学習を通じて子どもたちが何に気付き、何を理解し、何を身に付けるようにするのかといった、指導上のねらいを明確にする必要があるでしょう。

なお、プログラミング教育を教育課程全体の中で位置付けることについては、各学校の実施につながるのかといった懸念もあります。次期学習指導要領においては、各教科を束ねる総則の規定を抜本的に見直し、教育課程全体を見渡した教科横断的な取り組みが実施されるよう、各学校の「カリキュラム・マネジメント」が明確に位置付けられる方向で検討が進められています。各学校が地域の実情や子どもたちの姿、指導体制の現状などを踏まえながら、最善のプログラミング教育が提供されるよう、総則の規定において明確に位置付けるとともに、具体的な実施の在り方については、学習指導要領の解説や指導事例集を広く普及させることで、各学校における具体的な実施をしっかりと確保していくことが求められます。

こうした全ての小学校を念頭に置いた実施に加えて、地域の特性などに応じて、研究開発学校や調査研究校、民間企業やNPOによる各種事業の実施校などにおけるプログラミング教育を重点的に進めていく取り組みも併せて推進し、その成果を広く普及していくことが求められます。また、義務教育学校などにおいて小・中学校段階を通じた効果的な実施の在り方を検討していくことも有意義でしょう。

各小学校の実状を踏まえた柔軟で学習成果のある教育内容の具体的な在り方

各小学校においては、学校ごとの子どもの姿や学校教育目標や指導体制の実情などに応じて教育課程全体を見渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科などを決め、地域との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められます。

国は、各小学校が見通しを持ってこうした計画・実施を行うことができるよう、2020年からの新しい教育課程の実施に向けて、教育委員会や小学校現場、関係団体、民間や学術機関などと連携しながら、指導内容の在り方を検討して指導事例集としてまとめることや、各教科における教育の強みとプログラミング教育の良さが結びついた教材の開発・改善を、その先の教育の在り方も見据えながら行っていくことが求められます。

プログラミング教育を実施することとなった教科においては、指導事例集などを参考に、各教科の指導内容を学びながら、コンピュータに意図した処理を行うよう指示ができる体験を、各教科の特質に応じた見方・考え方を働かせた「主体的・対話的で深い学び」の中で実現し、各教科における教育の強みとプログラミング教育の良さが相乗効果を生むような指導内容を具体化していくことが望まれます。

現時点でこうした指導内容のイメージと留意点について、さまざまな取り組みの実例や、各教科における「主体的・対話的で深い学び」とプログラミングを体験することとの関係を踏まえつつ示すとすれば、例えば以下の通りです。また、ここに掲げていない教科においても、実施の在り方が今後議論されることが望まれるでしょう。

【総合的な学習の時間】
情報に関する課題を探究する中で、自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、プログラミングを体験しながらその良さに気付く学びを取り入れていくことなどが考えられます。
実施に当たっては、プログラミングを体験することが総合的な学習の時間における学びの本質である探究的な学習として適切に位置付けられるようにするとともに、一人ひとりに探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要です。また、課題は各学校が学校教育目標等に照らして設定することから、情報に関する課題以外にも、地域の課題や環境に関する課題などにも対応できる教材の開発が強く求められるでしょう。

【理科】
身の回りには電気の性質や働きを利用した道具があることを学ぶ際、プログラミングを体験しながら、エネルギーを効果的に利用するために、さまざまな電気製品にプログラムが活用され条件に応じて動作していることに気付く学習を取り入れていくことが考えられます。
実施に当たっては、プログラミングを体験することが、理科における学びの本質である自然事象について問題を見いだし、より妥当な考えを導き出す学習過程として適切に位置付けられるようにしながら、一人ひとりに探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要になります。

【算数】
「計算する」という過程は、算数・数学の学習においても、日常生活においても、繰り返し行うことが必要です。これは、プログラミングで実行する必要性につながりやすいため、「計算することをプログラミングで教えればいいのではないか」と考えられる可能性もあるでしょう。
しかし、私たちが計算するときには、プログラミングで表現しなくても、人間の文明が生み出した遺産である「筆算」で計算することができます。小学校で筆算を学習することは、計算の手続きを一つひとつのステップに分解し、記憶・反復し、それぞれの過程を確実にこなしていくということです。これは、プログラミングの一つひとつの要素に対応します。つまり筆算の学習は、プログラミング的思考の素地を体験していることでもあり、プログラミングを用いずに計算を行うことが、結果としてプログラミング的思考につながっていくことになります。
算数で、プログラミングの体験をどこに位置付けていくかについては、こうしたことを踏まえながら、効果的な場面を考えていかなければなりません。例えば、図の作成などにおいて、プログラミングを体験しながら考え、プログラミング的思考と数学的な思考の関係やそれらの良さに気付く学びを取り入れていくことなどが考えられます。
実施に当たっては、プログラミングを体験することが、算数における学びの本質である数学的活動として適切に位置付けられるようにしながら、一人ひとりに探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要です。プログラミングを体験することによる数学的活動が、算数における「深い学び」の達成に寄与するものになることが求められるでしょう。

【音楽】
音楽づくりの活動において、創作用のICTツールを活用しながら、与えられた条件を基に、音の長さや音の高さの組合せなどを試行錯誤し、過程を楽しみながら見通しを持ってまとまりのある音楽をつくることや、音長、音高、強弱、速度などの指示とプログラムの要素の共通性など、音を音楽へと構成することとプログラミング的思考の関係に気付くこと、また、デジタルによる演奏と生の演奏から感じる違いなどに気付くようにすることなども考えられます。
実施に当たっては、低学年時の音遊びなどの経験を基盤として、プログラミングと関連付けた音楽活動が、音楽の学びの本質に照らして適切に位置付けられるようにするとともに、一人ひとりに創造的な学びが実現し、つくる学習とそれを実際に音や声で表す学習が一層充実するものとなるように十分配慮することが必要です。

【図画工作】
図画工作科においては、子どもたちが材料の形や色、質感、性質などの特徴を捉えたり、イメージを持ったりしながら、豊かに発想や構想し造形的に表すことが重要です。例えば、そのような学習過程において表現しているものを動かしてみることにより、新たな発想や構想を生み出したり、異なる視点からよさや美しさを感じ取ったりすることができるよう、プログラミング教育を実施していくことが考えられるでしょう。
それを具体化するためのソフトウェアなどの在り方について、関係者の知見を結集して早急に検討していく必要もあります。一人ひとりに創造的な学びが実現し、一層充実するものとなるよう、子どもたちの感性が豊かに働く教材の開発につなげていくことが求められます。

【特別活動】
子どもたちが自分の興味・関心に応じて活動を選択し自主的・実践的な活動を行うクラブ活動において、既存のクラブ活動にプログラミングを体験する学習を取り入れたり、子どもの姿や学校・地域の実情などに応じて、プログラミングに関するクラブ活動を運営・実施できるようにしたりしていくことなどが考えられます。
実施に当たっては、プログラミングを体験することが特別活動の学びの本質である自発的・自治的な活動として適切に位置付けられるようにするとともに、一人ひとりに自己実現を図る学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要です。

プログラミング教育を行う単元を教育課程に位置付けていくには、総合的な学習の時間にプログラミングを体験しながら社会における役割を理解し、それを軸としながら、各教科におけるさまざまなプログラミング教育につなげていくことが効果的でしょう。具体的な実施の在り方については、各学校での子どもの姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情に応じた、柔軟な対応が検討されることが望ましいです。総合的な学習の時間と教科学習の双方で実施したり、教科学習のみで実施したり、総合的な学習の時間のみで実施したりと、柔軟な在り方が考えられます。

どのような場合であっても、プログラミング教育が各教科における学習上の必要性に支えられながら、無理なく確実に実施され、子どもたちに必要な資質や能力が育成されるよう、前述の「カリキュラム・マネジメント」を徹底し、学習指導要領の解説や指導事例集を広く普及させることが求められます。

また、プログラミング教育を行う単元に最大限の効果を発揮させるには、「プログラミング的思考」が国語や算数などの学びで身に付ける論理的な思考力とつながっていることや、社会科における社会の情報化に関する学習など、各教科の学びとの関係性を教員自身が認識し、有機的につなげていけるようにすることが求められます。

教育課程外や学校外の学習機会とのつながり

小学校におけるプログラミング教育で、プログラミングに触れたことをきっかけとして、個人的に更に深く学んでみたいと思ったり、プログラミングに携わる職業を目指して学びたいという夢を持ったりする子どもたちが増えてくることも期待されます。

プログラミングに興味を抱いた子どもが多様な才能を伸ばせるよう、民間で実施されているさまざまなプログラミング教育の機会や、土曜学習などでの学習機会を個別に活用できるよう、都市部だけではなく全国を視野に入れ、官民連携して体制を整えていくことが求められます。

【参考資料】
小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)