「変えられる」教育で大切なのは関わる大人が幸せであること 株式会社LITALICO野口晃菜さん 後編

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さまざまなバックグラウンドや特性を持つ子どもの教育において、一般の学校や先生方にもノウハウが求められる現代。全ての子どもたちがそれぞれ自分らしく伸びる場所を見つけられる教育が、社会には必要です。そんなニーズに応えようと、株式会社LITALICO(以下:リタリコ)では発達障害のある子どもや、今の学校教育がなかなかフィットしない子どもたちを支援するための、教育事業を展開しています。執行役員の野口晃菜さんに事業内容を伺ううちに、話題は「先生の自己肯定感」の重要性へ。自ら環境を切り開いていける子どもを育成するために、先生が踏み出すべき第一歩とは……?

目次

『障害のない社会』の実現のためにリタリコが行う事業とは?

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    うさぎ

    前編では、リタリコさんが考える『障害のない社会』をつくるための教育について語っていただきました。この『障害のない社会』の実現に向けて、リタリコさんが行う子どもたちのための事業について、もっと知りたいです。

  • noguchi

    野口さん

    リタリコで展開している子ども向けの教育事業の中には『LITALICOジュニア』と『LITALICOワンダー』(2016年8月1日よりそれぞれ『Leaf』『Qremo』から名称変更)があります。これは、どちらも子ども自身の可能性を広げる手助けをする目的で作られたサービスです。発達障害のある子どもの中にはできることとできないことの差が顕著な子どもがたくさんいます。簡単に説明すると、LITALICOジュニアはその子に合っている方法で生きる上で土台となる知識やスキルを獲得する事業、LITALICOワンダーは「できること」をとことん伸ばす事業なんです。

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    うさぎ

    では、より具体的にそれぞれ特徴を教えていただけますか?

その子に合った学びを提供する『LITALICOジュニア』の教育

  • noguchi

    野口さん

    まずLITALICOジュニアの説明から。これは、発達障害のある子どもや、今の学校教育がフィットしない子どもたちが基礎的な学習や、ソーシャルスキルを学ぶことを目的とした事業です。今年で6年目になるのですが、都市部を中心に、60か所以上ある教室に約8,000名の子どもたちが通っています。

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    うさぎ

    それだけ発達障害の子どもたちはたくさんいるし、その方々に特化した教育が必要とされているんですね。

  • noguchi

    野口さん

    そうですね。LITALICOジュニアへの入会は、地域の学校やクリニックからの紹介も少なくありません。発達障害のお子さんに合った教育を提供できる環境は、それだけ整っておらず、保護者も不安を感じている方は多いですね。ですが、LITALICOジュニアは発達障害の子どものみが通う教室ではありません。一般的な学習教室としての機能を持っているので、学習塾として通っている子どももいます。

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    うさぎ

    それぞれの子どもに合わせて教え方を工夫するところに、インクルーシブ教育のノウハウが活きてくるんですよね。
    ※インクルーシブ教育…すべての子どもに対して、一人ひとりに合った教育的支援を通常の学級において行う教育のこと。

  • noguchi

    野口さん

    はい。個々に合わせた教育は、障害の有無に関わらず、本来は誰にとっても大切だと思います。障害の無い子どもに対しても、このベースの考え方は変わりません。本質的には同じ考え方やノウハウが必要だと思います。

できるを伸ばす『LITALICOワンダー』の教育

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    うさぎ

    では一方で、LITALICOワンダーの事業ではどんなことを行っているのですか?

  • noguchi

    野口さん

    LITALICOワンダーは、ITを活用したものづくりを通して、全ての子どもたちのクリエイティブな能力を伸ばしていくことを目的としています。現在は5つの教室に約1,500人の生徒が通っていて、その中の1〜2割がLITALICOジュニアにも通っていたり、発達障害の傾向のある子どもたちです。

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    うさぎ

    ITでのものづくりを通して、実際にどのような教育が行われているのでしょうか?

  • noguchi

    野口さん

    自分の好きなゲームをパソコンで作ったり、ロボットを動かしたりと、子どもたちのクリエイティビティを育てていきます。

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    うさぎ

    子どもの内から凄くレベルが高そうですね……。

  • noguchi

    野口さん

    発達障害の子どもの中には、興味を持ったことにはとことん集中して取り組む特徴がある子どももいます。教室に通う子の中には、「今までこんなに楽しい遊びやったことない」と目を輝かせながらITのものづくりに取り組んでいる子も多いんですよ。また、LITALICOワンダーに通っている子どもには、顕著な特性が見られない「発達障害か、そうでないのかのいわゆるグレーゾーン」の子たちも多く在籍しています。こうした子どもたちは、学校では授業中歩き回ったり、勉強についていけなかったりして問題児扱いされている場合が多いのですが、面白いことに、LITALICOワンダーの教室内では、普段先生から叱られてばかりの子がヒーローになったりするんです。

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    うさぎ

    環境が変わると、子どもの立場まで逆転するんですね。「障害は社会の側にある」というリタリコさんの考えそのものが形になって現れているのが感じ取れますね。

  • noguchi

    野口さん

    ITでのものづくりを通して、教室内では子ども同士が「障害」というラベルが無い状態で共存しています。「何作ってるの〜?」とフランクに話しあったりしているんです。例えばアスペルガーの診断のある子が、ものすごく高度なゲームを作ると、学校では優等生で通っている子からも「あいつすごいな」と一目置かれたりするんです。こうして「できる」の価値観がひっくり返る状況が日常的に起きています。そうした環境を目の当たりにすると、保護者の方の我が子を見る目まで変わるんです。今までは発達障害の可能性があることに対して、なんとなく「この子は周りよりできないことが多い」と思っていたところから、突然、保護者の方もできないようなプログラミングがスラスラできるようになるので「この子はこんなこともできるんだ!」といった感動に変わります。そうして保護者の方の自己肯定感が上がると、子どもの自己肯定感も上がっていき、良い連鎖が起きるんです。

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自分で環境を変えられる子どもを育てるために

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    うさぎ

    LITALICOジュニアとLITALICOワンダーで、異なるアプローチからの教育で、多くの子どもたちの可能性を広げているリタリコさんですが、子どもたちにはどんな大人になって欲しいですか?

  • noguchi

    野口さん

    障害の有無に関わらず、「自分で周りの環境を変えられる」大人になってほしいです。社会の中で幸せに自分らしく生きるためにはどうすれば良いのかを考えられることが大事です。LITALICOジュニアの教室に通う子で、自分のことをきちんとまわりにプレゼンできるようになった子どももいます。彼は自分の困難さとそれに対して必要な配慮について、自分の通う学校のクラスメイトにちゃんと伝えているんですよ。「僕はこういう困難さがあります。こういう時はこうやって声をかけてもらえるとうれしい。でも僕はここが得意だから、代わりにこういう時は他の人を助けられる。よろしくお願いします!」みたいに。

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    うさぎ

    それってすごいことですよね。障害のある人は、守られたり支援してもらったりと受け身でいるんじゃなくて、自分でも働きかけることも大事なんだとハッとました。

  • noguchi

    野口さん

    リタリコの教室に通う子どもたちに限らず、こういう子どもたちがどんどん育っていってほしいですね。そのためには、周りの大人が子どもたちの自己肯定感を育むような関わりをして、働きかけることで環境は変えられるんだってことをきちんと教えられることが大事です。そして、先生自身の考え方が大きく影響してくるのです。

「変えられる」子どもを育てるのは先生の考え方

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    うさぎ

    先生の考え方が子どもの未来を左右するというと……?インクルーシブ教育の研究者としても教育現場を見ていて、野口さんが先生方に対して感じていることはありますか?

  • noguchi

    野口さん

    子どもたちの自己肯定感を育むためには、保護者だけでなく、普段学校で子どもと向き合う先生方も、自分自身のことを理解して自分らしさを大切にできていることが重要になるんです。リタリコでも先生同士でワークショップをしてもらうことがあって、先生一人ひとりに「自分の強み」と「自分の弱み」をどんどん書き出してもらうんです。その時に「弱み」はたくさん出てくるのに「強み」となると一つも出てこないこともあるんですよね……。

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    うさぎ

    子どもの成長には、まず先生自身の内面が整っていることも必要なんですね。日々業務に追われている先生こそ、自分と向き合うことはなかなかできていないのかもしれません。

  • noguchi

    野口さん

    そこで、自分の「強み」を発見してもらうために、先生方同士でお互いの良いところを伝えあってもらうのです。この手法はなかなかおすすめで、やっていくうちに「自分の取り扱い説明書」を作ることができるようになります。先ほどの「自分のことをプレゼンできる」子ができていることなんですよね。まずは自分のことを深く理解することで、社会とどう関わっていくかを考える基準にもなるわけです。

  • usagi_icon-1

    うさぎ

    先生自身も社会との関わりを考えることがそんなにも重要なのでしょうか……?

  • noguchi

    野口さん

    「自分の周りの環境は変えられる」ことを子どもたちに伝えるためには、先生たちがそれに対して後ろ向きな考え方を持っていたら説得力がないです。良く子どもたちに「そんなの社会に出たら通用しないよ」と話す大人っていますよね。でも、その社会を作り上げていくのは今の子どもたちのはずです。そして、先生の多様性も教育の現場に生かされていける環境を作っていきたいし、そのためには先生が自分の強みと弱みを把握できていることが、大きなカギを握るはずです。

  • usagi_icon-1

    うさぎ

    子どものころに先生に言われた言葉は社会に出てからもずっと心に刻まれていたりしますよね。先生自身の社会に対する意識を変えなければいけない理由にも納得できました。

  • noguchi

    野口さん

    先生方の中には、古い体制の教育現場でなんとか状況を変えようと孤軍奮闘している方も少なくありません。リタリコでは定期的に先生向けのイベントを開催しています。そこにいらっしゃる先生が横のつながりを増やしていってくれるのを見ているとすごくやりがいを感じますね。どうやったら学校をより良く変えられるかを他校の先生同士で共有しあったり、方法をみんなで考えたりする機会をもっとたくさん作っていきたいと思います。特に若い先生方には頑張って欲しいし、これからも有効な場やサービスの提供をしていきたいです。

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    うさぎ

    リタリコさんは子どもたちだけでなく先生方の支援にも力を入れているんですね。とても心強いです!

  • noguchi

    野口さん

    そもそもリタリコの名前の由来は、「利他的・利己的」という対義語から来ているんです。なぜなら、自分を犠牲にして他者を幸せにするのではなく、他者を幸せにするためには自分も幸せである必要があると考えているから。先生方にも同じように、子どもたちにとって本当に良い教育とは何なのかを追求しながら、自身も働きやすく、自己肯定感を持てるような環境を自ら作っていけるようサポートしていきたいです。

みなさんは、ご自身の強みと弱みを挙げることができますか?
この機会にまずは改めて考えてみてはいかがでしょうか。先生たちの意識が変わることから、どんな子どもも自分らしく成長することが出来る社会が生まれていくかもしれません。

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