「一人ひとりに合わせた教育」先生が特別支援教育で活かすべき大切な事 LITALICO執行役員野口晃菜さん(前編)

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先生であれば、毎日子どもたちと向き合っていく中で、一人ひとりが自分らしく輝ける環境をつくってあげたいと思うはずです。一体どうすれば、さまざまなバックグラウンドや特性を持った子どもたちにそのような環境を作ってあげられるのでしょうか。
株式会社LITALICO(以下:リタリコ)は、教育や障害福祉の分野で、そんな課題を解決する事業を創りあげている会社のひとつです。『障害のない社会をつくる』というビジョンを掲げ、関わりを持つさまざまな人が幸せになることを目指す会社。今回は、このリタリコで執行役員を務める野口晃菜さんにインタビュー。多様化が進む社会の中で、先生が子どもたちのために何ができるのか、伺いました。

目次

もしも、今の社会に眼鏡やコンタクトがなかったら?

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    うさぎ

    まずは、リタリコさんの掲げる『障害のない社会をつくる』ついて教えてください。

  • noguchi

    野口さん

    リタリコでは「障害は人ではなく社会の側にある」と考えています。例えば、今の社会で眼鏡やコンタクトがなかったとしたらどうでしょうか。視力が悪い人は「障害のある人」となります。でも今は眼鏡があって、眼鏡をかけていても誰も障害があるとは思わないんですよね。ですので私たちは、障害はその人にあるのではなく、社会の側にあると思っているんです。
    社会の側にその困難さを解決する手段を作ることを通して、さまざまな人が幸せになれる「人」中心の社会をつくることを目指しています。

障害の有無を問わず、子どもの多様性を活かせる社会に

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    うさぎ

    それでは次にリタリコさんの教育事業について教えてください。

  • noguchi

    野口さん

    リタリコは障害者の就職を支援する企業としてスタートしました。その中で、発達障害のある方たちの就労が、現在の社会ではとても難しい状況だと実感したんです。そして、そんな方々を本当の意味で支援するには、子どもの頃の教育から見直す必要があることが分かってきました。私たちはこの気づきを活かし、発達障害のある子どもや、今の学校教育がなかなかフィットしない子どもたちを支援するために、『LITALICOジュニア』(2016年8月1日より「Leaf」から名称変更)事業を展開しています。『LITALICOジュニア』は子ども自身の可能性を広げる手助けをする学習教室です。
    また、まだまだ支援体制が整っていない地方で発達障害のお子さんを持つ保護者の方々のために、発達障害のポータルサイト『LITALICO 発達ナビ』の運営も行っています。

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    うさぎ

    発達障害は外見ではなかなか他人に気がついてもらえないからこそ、本人や保護者の方々は苦労することも多いそうですね。野口さんご自身も、ずっと教育の分野に携わってこられたんですよね?

  • noguchi

    野口さん

    私は大学でインクルーシブ教育の研究をしてきました。現在も、働きながら筑波大学の博士課程に所属しています。主にアメリカのインクルーシブ教育の仕組みについて調査しているんです。最終的には、障害のある子どもたちだけでなく「さまざまな子どもたちがいる」ことが前提の価値観を広げていき、より一層一人ひとりに合った支援ができる教育の仕組みを日本に作りたいと思っています。

日本の特別支援教育に関する制度は今が過渡期

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    うさぎ

    それでは、インクルーシブ教育がどのようなものなのか、簡単に説明していただけますか?

  • noguchi

    野口さん

    インクルーシブ教育とは、障害のある子どもを含むすべての子どもに対して、一人ひとりに合った教育的支援をどの学校においてもおこなう、「誰も排除されない」教育のことです。

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    うさぎ

    そもそも野口さんがインクルーシブ教育の研究をしようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?

  • noguchi

    野口さん

    私は、家族の仕事の都合で12〜18歳までをアメリカで過ごしました。その時通っていた学校は、同じクラスに車椅子に乗っている子がいたり、隣のクラスに脳性麻痺の子がいたりする環境でした。さまざまな障害があっても、フラットな環境で学んでいたんです。日本での学校生活も経験していた私にとってはそれがすごく印象的でした。なぜ、アメリカと日本ではこんなに教育の環境が違っているんだろう、と疑問を持ったことが、現在の研究に紐付いています。

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    うさぎ

    アメリカと日本の両方で学校生活を送った野口さんだからこその視点が、現在の研究やリタリコさんの事業に反映されているのですね。では、障害を持つ子どもの教育支援について、日本での現状はどうでしょうか?

  • noguchi

    野口さん

    日本での障害のある子どもたちに対する教育環境は、今がまさに過渡期といえる状況です。ここ10年で少しずつ制度が整ってきていて、各学校でも、これに応じて整備が求められています。
    例えば、特別支援教育が必要な子どもに対して、個別の指導計画の作成を求められたり、先生の中に「特別支援教育コーディネーター」という役職を配置して、特別支援教育に関する環境を整えること義務付けられたりしています。しかし、一般的な学校ではまだまだ特別支援教育に対する具体的なノウハウを持つところは非常に少ないのが現状です。特に「特別支援教育コーディネーター」は資格がある訳ではないので、実際に機能しているかといえば、任命された先生も何をして良いのかが分からず、名前だけになってしまっている場合も少なくありません。

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    うさぎ

    制度が変わっても、現場が変わるまでにはもう少し時間が必要なのかもしれませんね。一日も早く特別支援教育の環境が整うためは、どのようなことが必要なのでしょうか?

  • noguchi

    野口さん

    まずは学校全体で、特別支援教育に関する環境の整備を行うことが大切だと思います。そのためにリタリコでは、積極的に学校の先生向けの研修などを行い『LITALICOジュニア』の事業で培った特別支援教育のノウハウをお伝えする活動をしています。毎日通う学校と、保護者が連携することこそが障害をのある子どもが自分らしく過ごすために重要です。一つの学校で、全校生徒のうち6.5%は特別支援教育が必要な子どもだという報告も出ています。つまり、1クラスに2−3人は支援の必要な子どもがいることになります。そんな状況だからこそ、先生一人ひとりが、当事者意識を持って特別支援教育に対して考える必要があるんです。

教育にも「ユニバーサルデザイン」の視点を

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    うさぎ

    現場で働く先生方が、特別支援教育に関して、出来ることはありますか?

  • noguchi

    野口さん

    障害の有無に関わらず、子どもたちには、それぞれに合った学び方が存在します。書いて覚えるのが得意な子もいれば、聞いて覚えるのが得意な子もいます。その子にとって一番良い学び方が提供できるように、先生は教え方にも「ユニバーサルデザイン」を目指す意識を持つと良いのではと思います。

※ユニバーサルデザインとは?
文化や言語、国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)

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    うさぎ

    まずは子どもの特徴をしっかり知ることが大切なんですね。先生が、子どもにとってどんな学び方が理解しやすいのかを知るポイントはありますか?

  • noguchi

    野口さん

    シンプルに、他の人に聞いて、客観的に自身の授業を振り返ることがお勧めです。私も教える機会があるのですが、その時は子どもたちに直接「このやり方で分かる?」「どこが分かりにくい?」と聞くようにしています。これまでさまざまな先生の指導する姿を見させてもらってきたのですが、「指導すること自体はとても上手な先生の授業が、必ずしも子どもにとって分かりやすいとは限らない」と感じています。先生は普段一人で授業をしていることが多いので、ベテランになればなるほど、フィードバックを受けることは減ってしまいますよね。そうではなくて、子どもに直接感想を聞いたり、先生同士で授業を評価しあったりする機会を設けるなどして、しっかりと子どもの成長につなげる教え方を考え直すことが大事です。

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    うさぎ

    先生が授業づくりを振り返ってみる意識から「ユニバーサルデザイン」の教え方が見えてきそうです。最後に、先生方へのメッセージをお願いします。

  • noguchi

    野口さん

    特別支援教育は難しいものと捉えられることもありますが、本質は「一人ひとりに合わせた教育」のことです。普段子どもたちと接している先生こそ、「子どもはこうあるべき」という考えを取り払って、一人ひとりとしっかり向き合うことを心がけて欲しいです。それが、『障害のない社会をつくる』ことにつながっていくはずです。

多様化する社会で教育も刻々と変化を遂げる中、先生はこれからの教育の現場において、子どもたちをひとくくりにするのではなく、一人ひとりの特徴に合わせる姿勢が必要になってくるのかもしれません。

後編では、リタリコさんの『障害のない社会をつくる』取り組みについて、詳しくお伝えします!

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