PDCAサイクルを回すことで手にした日本人初のメダル 為末大(前編)

為末 大 氏

今回のうさぎノート通信は、2001年の世界選手権のトラック競技で、日本人初のメダルを獲得した為末大さんのインタビューです!
前編では、そんな為末大さんが「どのようにしてメダルを取るまでに至ったのか?」「選手時代を通して学んだ一番大切なこととは?」について。
元プロ陸上競技選手であり、男子400mハードルの日本記録保持者、シドニー・アテネ・北京と過去3回のオリンピックに出場するなど、輝かしい経験を持つ為末さんの貴重な成功する「為」のノウハウをお届けします。

目次

自分の責任は自分で取る 自発性を養われた子ども時代

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    うさぎ

    そもそも、為末さんはなぜ陸上選手になったんですか?

  • 為末

    為末

    小さい頃からかけっこが得意でした。姉の所属していたクラブに小学校の時に入ったのがきっかけでした。それからずっと陸上競技をしてきたんですが、高校や大学に入学するタイミングで、辞めても良いタイミングはありました。それでも続けたのは、結局は陸上が好きだからでしょうね。いつしか職業にすることを目指すようになりました。

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    うさぎ

    学生時代にしていた、早く走るための工夫を教えて下さい。

  • 為末

    為末

    はい。僕が所属していた中学校の部活の先生はディスカッションをベースにして指導をする、当時は極めて珍しい先生でした。『僕はこう思うけど、君はどう思う?』というように意見を聞いてくれました。
    その時、自分の意見を主張するには根拠を持っていないと受け入れてもらえません。スポーツ関連の本を読んで勉強したり、自然と自発性が身について、理論武装をするようになりました。
    その中から自分にあったトレーニングを考える様になり、走りにも結果が現れてきたんです。

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    うさぎ

    為末さんは選手時代に実業団に所属したり専任のコーチをつけたりせず、自分でトレーニングをなさっていたんですよね。

  • 為末

    為末

    そうです。先ほどの経験が少なからず影響があると思います。ハードルは個人競技ですし、競技中に他の選手と接触することもありません。だから、トレーニングの成果がストレートに結果として成績に反映されます。この『結果に対して自分で全部責任を持つ』ことが、他のスポーツに比べて陸上競技の特徴とも言えます。もし誰かにアドバイスをもらって実践して、足が遅くなったとしても、その結果は自分の責任なんです。誰かに「委ねる癖」がなくなりましたね。

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    うさぎ

    まさに「自分との戦い」ですね。それでは、選手時代はどのようなことを意識してトレーニングをしていたのですか?

  • 為末

    為末

    やってみて、課題を見つけ、解決に向かって練習することをとにかく繰り返していました。いわゆるPDCAを回すということですね。陸上の個人競技は他の選手が成績に関与する要素が少ないので、いかにビジョンを持ち、意思決定ができるかが重要な鍵なんです。

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    うさぎ

    陸上競技でのPDCAですか…具体的にどんなPDCAを回していたのでしょうか?

  • 為末

    為末

    例えば、アスリートが最初にビジョンを持とうとすると、子どもが『王様』とか『お姫様』を目指すように、『イチロー』目指してしまうと思います。
    しかし、その人の生まれ持った特性上、必ずしも目指すべきビジョンとして『イチロー』が良いとは限りません。これは諦めるとは違います。自分に与えられた骨格や性格、身体能力からよりリアルなビジョンを形成することが大事なんです。自分のことをより冷静に判断して、夢の実現への近道をイメージすることが大事です。

    僕の場合は、体が小さく、足の回転数があまり早い方ではないのですが、ストライド(歩幅)が出やすく、バランス感覚が整っているという特性がありました。そこで、最終的な走り方のビジョンとして、地面を踏んでいる時間が少ない方法を考えました。良く河原でやる、石を水面で水切りした時のようなイメージを目指しながらトレーニングをしていました。

    課題の発見では、自分の走りを数値化・可視化をして統計的にアプローチしました。
    400mハードルではハードルの間が9区間あります。
    自分のタイムを区間ごとに区切って数値化しグラフにすることで、自分はどこでスピードが落ちやすいのか確認しました。当初は、スタートに課題があると思い、スタートを改善したのですが、スタート区間のスピードは上がるものの、全体タイムの改善にはつながりませんでした。
    そのあと、体型が僕と似ている世界の数人の選手を比較すると、統計的にみんな同じエリアでタイムが落ちやすいということが分かってきました。そこで、ひと冬の間、ずっとその特定の部分のタイムを短くするトレーニングをしました。
    こういったトレーニング方法により、最終的には全体のタイムが縮まり、結果につながりました。

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選手として得た経験を活かし、引退後に為末大が選んだ道

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    うさぎ

    為末さんが選手時代に得た一番大きなものはなんでしょう?

  • 為末

    為末

    スポーツを通して、自分の中の『核』のようなものが身についたことです。結果を出すために常に自分と向き合い続けてきたことが積み重なり、ブレない精神が根底にできあがっていったという実感がありますね。

    論理を立てて自分の記録を分析し、練習して結果につなげてきた経験から、物事を整理して、言葉で『つまりこういうことですね』と伝えられる力も随分つきました。この経験を社会に還元したいと思って、起業する道を選んだんです。

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    うさぎ

    陸上競技引退後の今は「株式会社 侍」という会社を経営なさっていますが、もともと起業欲はあったんですか?

  • 為末

    為末

    起業というよりも、人間の心の仕組みを理解したい、という想いがずっとありました。引退後はこれを軸に活動しようと考えていました。起業はその選択肢の中の一つでした。コーチにはならないということだけは決めていたんですよ。

    政治の道に進もうかと思っていた時期もありましたが、あんなに頑張ってても、周りに文句ばっかり言われるなんて大変だなと思い、会社にしました(笑)。

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    うさぎ

    会社の事業の「為末大学」では、『うさぎノート』を活用してくださっていますよね。ありがとうございます!「為末大学」は実際にどのような教室なんですか?

  • 為末

    為末

    今は小学生をメインにランニングの指導をする『かけっこスクール』として力を入れている教室のことなんです。

    この活動では、スポーツはあくまでツールとして捉えています。生徒が今後の社会に柔軟に対応しつつも、大事なところでは流されない『核』を持った大人になることをいちばんの目的として掲げています。かけっこスクールは何よりも子どもたちが「自分の頭で考える」能力を身につけるためのものです。かけっこを教えると言うよりも、先ほどの自分の「核」になるものを身につけることが第一です。

選手を引退し、子どもたちへのランニング指導という形で、異業種から教育の道を選んだ為末さん。まず自分を知り、自分の頭で考えて仮設を立て、実行し、検証しながらタイムを上げていく−−−。ビジネスのシーンでもお馴染みのPDCAサイクルを回すことで、メダル獲得まで達成出来ることに驚きました。ひたすらストイックな為末さんの姿勢に思わず舌を巻いてしまいます。

為末さんのインタビューは後編に続きます!

為末さんの書籍も出版されています!
帯あり

ベストセラー『諦める力』続編
新刊『逃げる自由−「距離をとること」でラクになる』(プレジデント社)
2016年5月28日発売
後編はこちら 日本陸上界のスター為末さんの子どもの「核」をつくる教育? 為末大(後編)